ほとほとの煮物

お口にあうかどうか

朝5時

「買いに行って力尽きたん?」

見ると、大きなクッションに覆い被さるようにして寝落ちする、大きな身体。右手には乳飲料が握られていて、面白いのでそのままにしておきます。

 

「クリスマス忘年雪遊び会するぞ!」と意気込んで集まったのは、15時過ぎたころでしょうか。友だちが借りている一軒家に集まると、昨日一昨日と降った雪に「雪遊び」どころではなくて、全力の雪かきで小学生ぶりの霜焼けをこさえました。買い出しに行っておつまみを作って、乾杯して杯を重ねているうちに、仕事終わりの彼らが続々と集まります。明日は日曜日。朝まで飲むのです。

 

朝4時ころ、誰かが「ラーメン食べたい」と言い出して、「お前が買ってこい」「お前が行け」とやっているうちに引っ込みがつかなくなって、みんなで近くのコンビニへ。お湯を沸かして、それまでお酒の空き缶で埋まっていたテーブルの上にカップ麺を並べるころには、午前5時をまわっていました。

先述の通り寝落ちする人もあって、テーブルを囲んでいるのは、彼と、彼女と、わたしだけ。あんなに賑やかで眩しかった室内も、みんなの寝息に静かで、どこか薄暗く感じられました。

「明日、休みなん?」

彼女が彼に聞きます。

「自営業なめんな」

「いいなあー!私なんて、永遠にバイトよ」

「バイト以外にもやることあるしね」

「うちだって、冬だから暇ってわけじゃねえからな。来年、田んぼやめるかもだし」

「え、やめてどうするの、離農?」

「離農したらどうするの、働くの?」

彼は農家の息子で、彼女は役場の派遣で、わたしは田舎にIターンしてきた安月給会社員。それぞれの働き方があって、それぞれの不安がありました。彼の顔があからさまに曇ったので、わたしはフォローのつもりで言います。

「でも、安定なんて今を生きるわたしたちにないしね」

「年金はでないだろうし」

「給料は低いし」

「いや、朝5時にする話じゃないだろ」

ごもっとも。

大人しくカップ麺を啜って、「じゃあ」と外に出ると、まだまだ夜が深く沈んでいて、街頭だけがぽっかり明るく、雪の道を照らしていました。