ほとほとの煮物

お口にあうかどうか

BGMのある思い出(帰り道)

バスの揺れは電車に比べて不規則で、エンジンによる微かな振動とカーブにおける緩やかな遠心力が眠気を誘います。大人になって車を買って地元を離れて、路線バスとは無縁になった今も、高校の帰り道に揺られたバスの記憶があります。

隣町への電車通学でしたが、1時間に1本の2両編成列車を不自由に感じる日には、学校の目の前にあるバスターミナルからバスに乗りました。電車なら10分で着く道のりを、太い道細い道入り組みながら40分。生活圏といえど入ったことのない道を進むバスは、朝起きて学校に行き勉強をして部活をこなし帰るわたしにとっての、ささやかな非日常でした。
エンジンの低すぎない唸り声、椅子の下から流れる暖気、まばらな乗客は皆静かで、つつと等間隔に流れる街灯が、その中で唯一の変化でした。

「このバンドは、歩くリズムにぴったり」
通学には必ず音楽を聞いていました。友だちがそう称した曲は、小気味好いテンポと滑るようなメロディが美しく、目蓋を重くします。眠気に逆らって開けた隙間へ街の明かりが差し込んで、それが車窓をつたう水滴に散って、耳からはカタチの曖昧な電子音が入って、なんだか右も左も知らぬところ、たとえば果てしない暗闇に星が瞬く宇宙を、帰るべき星に向かってまっすぐ下るような感覚でした。どれほど心地良い闇をたゆたっても美しい光に目を細めても、きちんと目当ての停車駅があって、バスを降りれば肌を張られる寒さに、身震いをひとつ。

あの感覚は、電車も、高速バスも、おとうさんが運転する車の助手席ですら思い当たりません。それはやはり、あの時間だからか、あの路線だからか。ただ、わたしはもうセーラー服を着る女子高生でなくなったということが明白で、この曲を聞くたびに友だちの言葉を思い出し、少し口の端を持ち上げるのでした。

 

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