ほとほとの煮物

お口にあうかどうか

BGMのある思い出(行き道)

7時43分発の普通列車に乗るために、7時10分に家を出ていました。朝陽を浴びながら歩くはずの道のりは日差しが鈍くて、さすがは「霧の街」の異名をとる地元だと、少し笑ってしまいます。冬はなおさらで、雪が降ったり止んだりする道をセーラー服にダッフルコート、おかあさんが編んでくれたマフラーに顔を埋めるようにして歩きました。
実家が坂の上にあったので、駅までの道は海に向かって下ります。住宅街をまっすぐ続く坂道のちょうど中ほどに陸上競技場があって、視界がすくっと開けると太平洋が見えました。両手を広げて乗るくらいの海。そこへ時々、雲の切れ間からスポットライトのように陽が差して、波間も煙った空気もキラキラさせて、わたしの視界もすうっと開くようでした。

もう、

星をひとつ盗んで
この街に落っことして
映画みたいに燃やして
最初から始めよう

日々溌剌と学校へ通うほうではありませんでした。どんよりと晴れない朝は一層足が重く、「霧の街」地元は高校生のわたしに随分手厳しいと感じたものです。

でも、耳がキンと凍る冬の朝、雲の隙間から海に続く光の階段を見ると想像力が働いたのでした。

電車に乗って学校へ行って、大人しく授業を受けて友人と少し笑って話しをして、部活をして帰る。それをこなせば星が空に瞬いて、あの雲の隙間から手を差し込むとその星が手中におさまって、いつか見た気がする映画のように街も私も燃やし尽くしてしまう。

悪くない想像だと、少し足が軽くなったのでした。

移ろう季節に思い出が増えて、それらの多くが音楽をともなっています。プレイリストのランダム再生が音楽と一緒に思い出も再生させて、わたしが歩んだ日々をある時突然提示するのでむず痒い気持ち。でも、そうやって重ねられた日々が、増えるプレイリストにおさまっているのだと考えると少しわくわくします。
今日も、音楽を聞きながら暮らしています。

 

星を落とす

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