かえりみち
車通勤しています。
歩けば15分ほどの道のりなのでそれくらい歩けば良いのだけれど、仕事で私用車をつかうので、車通勤せざるを得ません。わたしの生活は音楽とともにあるので、通勤時間もカーステレオを音楽プレーヤーと連動させます。車なら5分ほどの道のり、1曲聞ければいいほう。帰り道も同様で、会社を出たその瞬間からプレイリストを繰って、聞きながら帰ります。
陽が随分と長くなった帰り道。スムーズに退社できれば、空にはまだ朱が残っています。夜は山の向こうから迫ってきて、海にのこった朱とまざって不思議な紫です。どこからか響くカエルの合唱も、運転席に乗り込んでしまえばすっかり静かで、カーステレオだけがすっきりと音を響かせました。
新しくつくったプレイリスト。最近すきになったバンドです。やわらかなメロディにボーカルが溶けこんで、まるで、夕暮れの空のよう。刻一刻と色をかえる空に、帰り道の5分が惜しくて、ぐるりとハンドルを切りました。通勤にはつかわない道を曲がって、オレンジの街灯がスポットライトのように橋を浮かび上がらせています。川に沿ってくねる線路、その先で川と交差して、まっくろに流れる川の上を、欄干のない赤の路線が、しゃんと渡っていました。
等間隔に並ぶ街灯と車のライトだけがたしかに明るくて、月がとっぷり浮かんでいます。気づけば空のグラデーションはすっかり夜の向こう側で、はたとハンドルを切り返しました。
わたしは、平日の仕事終わりから、どこへ行こうというのだ。
そのあいだもカーステレオから、あのバンドが歌うのです。そろりと夕暮れ時のような切なさを感じさせるメロディは、もうすっかり、夜の顔でした。
素敵な曲は、帰り道を延ばします。