ほとほとの煮物

お口にあうかどうか

咲いた

「わたしの部屋には、鉢植え置かないで」

高校生のとき、母に言いました。

南向きで広くとられた窓は出窓になっていて、置いた植物はのびのびすくすく、元気に育ちました。当時わたしは、それが嫌でした。

自室にこもり、忌まわしい月曜日の影に怯える休日。視界の端には、太陽を受けて青々と枝葉を伸ばす鉢植えがあって、甘ったるい芳香を部屋に充満させます。わたしは、彼らがわたしの生命力さえも吸いとって大きくなっているんじゃないかという気がしました。高校の授業は難しくハイスピードで、部活はいまいち面白くなく、友人関係もおそるおそる。待ち受ける平日に対する憂鬱と、どうにも抗えない無気力がいつも胸の隅で渦巻いて、それを、何かのせいにしないと耐え難かったのです。

 

いま、1人暮らしの自室には3つの鉢植えがあります。ガーデニングが趣味の母が「あなたが社会人になったときに挿木して育てたの」とくれた鉢植えから、減ったり増えたりして3つ。北海道の左上に越してから、ずっと一緒の鉢は「水木蓮」の「れんちゃん」です。

 

母から譲り受けた最初の年こそ美しい花をたくさん見せてくれましたが、ひと冬こして以降はさっぱり。深い緑の丸っこい葉を茂らすばかりで、蕾をつけることがなくなってしまいました。

「剪定しすぎなんじゃない?」

という母の言葉に従ってはさみを置いてみると、のびるのびる。窓際の定位置から、太陽に向かってにょきにょきと枝を伸ばして、レースカーテンに触りました。それ以上いくと折れるよ、というところでぽってりした蕾をつけ、じっくりふくふくと膨らませて、ついに、咲きました。わたしが社会人になってから、3年が経過しています。

 

「わたしの部屋には、鉢植え置かないで」

高校生のとき、母に言うと

「花は元気をくれるのに」

と返されました。その言葉が、いまはわかる気がします。

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