ほとほとの煮物

お口にあうかどうか

あい

小学校の国語、漢字の授業では「これは”友達”の友、”友介くん”の友だね」「これは”お花”の花、”綾花ちゃん”の花だね」なんてふうに、クラスメイトの名前とあわせて教わりました。

教室には、習字や図工作品や個人目標が貼りだされていて、そこに「さとう友すけ」とか「山口あや花」なんてふうに、習いたての漢字を駆使した名前が、拙くもしっかり書かれていたのでした。

 

わたしは、苗字こそ小学1年生で習うような簡単なものだったけれど、名前は画数が多く難しい漢字です。授業で習う機会がなかなかやってこず、しびれを切らして小学4年生のころ、自分で練習し書くようになりました。それでも、国語の授業で「これは”あいちゃん”のあいだね」と紹介されるのが楽しみでした。

 

 6年生、最後の、国語の授業。

ついにわたしの漢字は、わたしの名前は、紹介されませんでした。

特定の意味をもつ漢字で、それ以外には使い道が乏しかったので、国語の教科書に掲載されなかったのです。心底がっかりしました。小学1年生から楽しみにしてきたその瞬間は、6年待ってもなおやってこなかったのです。

 

「名前の由来は?」

道徳か、国語の授業でした。

クラスメイトは「たくさんの友だちに囲まれて」とか「花のように美しく」とか、アニメやドラマで聞くような由来を、挙手してこたえます。恥ずかしそうな、くすぐったそうな、嬉しそうな表情。わたしの課題用紙には「字画が良かったから」「苗字が簡単なので名前はどっしりと落ち着いたものを」と箇条書き。なんだか夢のない由来な気がして、とても、挙手して発表する気になれませんでした。

 

でも今なら、父と母の想いがちゃんと込められているのだとわかります。

生涯しあわせに守られますように。文字に意味を込めるのはもちろんだけれど、父と母は、字画に幸せを託したのでした。

あい

わたしは、わたしの名前が好きです。