ほとほとの煮物

お口にあうかどうか

どぼん、

わたしは今年、25歳。

でも、いまだに父から「ほら、よそ見してるとこぼすぞ」とか、「すぐこけるんだから」とか言われます。おそらく、父にとってわたしは、いつまでたってもわずか3歳の女の子なのでしょう。

「あんまり近づくなよ!落ちるぞ!」

も、そう。

 

わたしは、水辺に行けば決まって足を滑らせました。そらそらとたゆたう水面、はっきり見えないその向こうで、何やら楽しげなことが起こっているのではないかと、覗き込んだがさいご。どぼん。ついつい、足をとられてしまうのです。

父と手をつないで訪れた公園、気づけば小川で、お尻から。「どうしてちゃんと見ていてくれないの!」と母から叱られる父。わたしも、隣でしょんぼり。

年齢を重ねるごとに、お尻、膝下、片足と、濡らす面積が小さくなっていったけれど、父に「あんまり近づくなよ!落ちるぞ!」と言われた3分後、ズルリと足を滑らせて静かに片足を浸したときには、「ああ、わたしは決まって、水に落ちる」と気づきました。10歳のときでした。(小学生にもなってさすがに恥ずかしく黙っていると、車に乗るときにバレました。)

 

父はその思い出をずっと心に残していて、25歳になった今も、水辺へ行くと「あんまり近づくなよ!落ちるぞ!」と声をかけてきます。そしてわたしも、確立こそ減ったものの、5回に1回は足を浸しているように思います。

変わらない親子。いえ、わたしは変わるべきなのだけれど。それでも、父がかけてくれる言葉や、声や、まなざしや、その習慣は、変わってほしくないと思うのです。

 

友だちの小学生が中学生になって、「水の作文コンクール」で全国入賞しました。彼女の作文を読んで思い出した、わたしの、水の思い出。