ほとほとの煮物

お口にあうかどうか

たこやき

綺麗な斜線を描いたソース。湯気が、食欲を刺激する香りを運んで、鰹節を踊らせます。別添えのマヨネーズは少々かため。箸ですくって塗りひろげながら、ひとつを口に運びました。

カリッ

歯を当てると、心地良い音で生地がやぶれます。ふんわり、とろとろ溢れてくるなかは半熟。ほんのり甘く、紅しょうがのアクセントがきいた生地から、タコが顔を出しました。。

 

たこやき

とりわけ、「銀だこ」のたこやきは、幼いころから特別な食べ物です。父に手をひかれて訪れる週末のスーパー。その一角にお店がありました。母の後ろについて歩くだけの週末のスーパーは、子ども心に面白くありません。歩き回ってすいた小腹に、母が買ってくれるお菓子やパンが、唯一の楽しみでした。銀だこのたこやきは、そのうちのひとつ。

 

父が両手で運ぶ買い物袋。母は妹を抱えています。対面販売で売られるたこやきを持つのは、わたしの役目でした。車について、父にシートベルトをはめてもらって、膝の上に乗せたビニール袋からは、なんとも言えない良い香り。たまらずのぞきこむと、母が「食べてもいいよ」と言うのでした。けれど、父は嫌な顔。小学校に上がる前の子どもが、動く車の中でアツアツのたこやきを、上手に食べられるはずがありません。案の定、「あーあー」とあきれ顔をされながら、わたしはたこやきを頬張るのでした。

 

ひとり出かけた週末の車内。銀だこのたこやきを久しぶりに食べて、幼いころを思いだしました。26歳になったわたしは、動く車のなかでもアツアツのたこやきを上手に平らげることができます。

ただ、できなくなったことと言えば。

幼いころのわたしは大層の大食らいで、8個入りのたこやきを「お父さんと食べなさい」と与えられて、1人ぺろりと平らげてしまうほどでした。でもいまは、6個入りもやっと。歳をとるのも良いことばかりではないのだと、たこやきを噛みしめたのでした。

26歳になりました。