ほとほとの煮物

お口にあうかどうか

村の食堂

「ねー、みんな彼氏いるよね」

北海道一人口の少ない村で、お昼を食べようと並んでいたときのこと。村唯一の食堂には、観光客はもちろん、地元の高校生が訪れます。わたしの母よりひとまわりは上のお母さんが曲がった腰でもくもくと調理して、息子さんがパキパキと配膳します。彼の声は、このご時世でマスクに阻まれくぐもっているけれど、にっこりと笑顔であろうことがわかります。わたしの前には女子高校生2人組が並び、背にしたすぐ後ろの席では、女の子2人が向かい合わせに座っておしゃべりしていました。

「そういえばこのまえ部活で…」

「えー、それはなくない?」

内容から、地元の高校生だとわかります。高い声でひっきりなしに交わされるおしゃべりが、なんとも10代というかんじ。聞くとはなしにいて顔を上げると見える席では、後頭部に盛大な寝癖をつくった男の子が、ひとりラーメンをすすっていました。

「メニュー、見ますか」

前に並んでいた高校生が、メニュー表を渡してくれます。ありがとう、と受け取って、あれこれ話しかけたいのをぐっと我慢。わたしにとってここは非日常だけれど、彼女たちにとっては日常なのです。なんでもない昼下がり、友だちとお昼ごはんに出てきたささやかな楽しみを、観光に舞い上がったわたしが奪ってはなりません。

 

通された席は、並んでいたとき後ろに座っていた2人組のちょうど隣でした。ふわりとした白のトップスや、揺れるスカート、きちんとアレンジされた髪はおでかけ仕様で、1人ラーメンをすすっていた男の子を思い出し、その差に、なんだか可笑しくなります。

 

寝癖をつけた男の子、観光で立ち寄ったライダー、おでかけ仕様の女子高生、ひとり旅でフラリ訪れたわたし。

村の食堂ではさまざまな人が、思い思いの時間を過ごしていました。それがなによりの旅体験で、わたしは、お腹を満たすまえからどこか満足したのでした。

 

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