ほとほとの煮物

お口にあうかどうか

E.T.ごっこ

「てぃーりーてれれれれーれー」

幼いころ、父は不思議な鼻歌を歌いながら、人差し指をわたしに向けました。わたしも人差し指をのばして、その先にゆっくり近づけます。曲が最も盛り上がるタイミングで指先をぴったり合わせると、完成。これが、父とわたしのE.T.ごっこです。

当時わたしは5歳でした。「E.T.」という映画があることを知りません。ただ父がそうして、わたしもそうすると満足そうに笑うので、この遊びの正解と理解しました。しばらくそうして遊んだけれど、ある日わたしが父と同じように妹に人差し指を向けると、妹は何が面白いのかわからないという表情で、ぷいと顔を背けたのです。わたしは、ついぞ思わなかったこの遊びに対する疑問と妙な羞恥心を覚え、次に父が人差し指を差し出した時、それを強くはねつけたのでした。父とわたしのE.T.ごっこの終わりでした。

 

最近、映画「E.T.」を初めて見ました。ストーリーは王道の青春SF。CGが時代を感じさせ、宇宙人のキャラクターが特別にキュートということもありません。ただ、始まってすぐに流れだすテーマソングに父の鼻歌が思い起こされ、26歳のわたしは思いました。

この映画を父が見たのは、きっと少年時代。未知の生物との友情と大冒険に心躍らせ、その記憶を大人になるまで心の中で温めつづけたのでしょう。そうして大人になって、生まれた娘と意思疎通がとれず、それでも「ここにいるよ」という愛を伝えたいと考えたとき、よみがえった映画「E.T.」の記憶。父は、娘と人差し指をぴったり合わせ、ふふふと笑うだけで満足なのでした。まるで、星を超えた友情を育んだ宇宙人と少年のように、そうすることが父の愛情表現でした。

 

グーニーズ」とか「ジュマンジ」とか、青少年の冒険物語にあまり食指が動かないわたしですが、E.T.ごっこの思い出がある限り、本作ばかりは高評価をつけざるを得ません。