ほとほとの煮物

お口にあうかどうか

赤の振袖

「どれでも好きなの選びなさい」

 

わたしの母は、三姉妹の長女です。中肉中背、田舎のお嬢ちゃんという風の母、そして、背が高くショートカットがよく似合う次女、パーマをあてたふわふわのロングヘアが可愛らしい三女の、三姉妹。彼女らは、それぞれに振袖を持っていました。赤地に大きく華やかな絵が入った長女の振袖、青地に細かな柄とラメが散りばめられた次女の振袖、黄色に桃や橙の花が鮮やかな三女の振袖。祖母の家で大事に保管されていたそれらは、孫娘の成人式で、再び日の目を見ることになりました。

 

3枚の振袖に、2本の帯、飾り帯は数え切れないほど。着物が趣味の祖母は、いつもより目尻をつりあげて、ああでもないこうでもないと、衣装箪笥を探ります。

 

「どれ、合わせてみなさいな」

 

一枚一枚着物をもちあげ、わたしの左の肩口から垂らします。

黄の振袖は可愛らしくて、20歳の成人式にぴったり。青の振袖は大人ぽくて、しゃんとした感じ。赤の振袖は、大きな柄が仰々しくて、あんまり好きではありませんでした。

 

「やっぱり、これがいいんじゃない」

 

けれど、祖母、母、おまけの妹と、満場一致で選ばれたのは、赤の振袖。

そしてわたしも、ひととおり自分の身体にあてがって、鏡に映った自分を見て、やはり、母が二十歳に着た赤の振袖が、最もしっくりくると思ったのでした。

 

田舎の祖母の家、ふだん入ることの少ない祖母の部屋、大きな姿見に映ったわたしが、窓から入る明かりに照らされて、きらきらしています。20数年前の母も、こんな感じだったのでしょうか。

 

「そうそう、お母さんの成人式の写真があるのよ」

「いいよお母さん!出さなくて!」

 

その真偽は、母の剣幕によって確かめられることはありませんでした。けれどきっと、そうなのでしょう。だってやっぱり、三姉妹の、三色の振袖のなかで、母の着た振袖が、1番わたしを輝かせたのですから。