ほとほとの煮物

お口にあうかどうか

新生活

寒い朝でした。

北海道の4月は、ようやく雪が溶けたくらいで、桜なんてまだ先です。春物のアウターが心許なく感じられます。道ゆく人はみな慣れた顔で一点を見つめて、おろしたての靴で片手に地図を見ながら歩くわたしを追い越していきました。

 

18歳、大学進学した春でした。それまで実家で暮らしていたわたしは、進学を機に一人暮らしをはじめて、友達の1人もいない学校へ入学しました。新入学生には、入学式の前にオリエンテーションがあり、そこで入学式の要項や新学期の説明がなされます。大学へは地下鉄で向かい、家から駅までは歩いて15分ほど。引っ越してきたばかりのころ、寂しかろうと1週間妹が残ってくれて、2人暮らしをしました。毎日、買い物へ行ったり近所を探索したりして、そのときに、家から駅までの道のりも確認しました。けれど、その朝のその道は、随分別のもののように感じられました。

 

これから1人で暮らすんだ。

毎日ごはんを食べて、洗濯と掃除をして、アルバイトをしてお金を貯めるんだ。

学校に通うんだ。

知っている人が1人もいない学校。

4年間の学生生活、友だちはできるだろうか。

楽しいだろうか、もし辛いばかりだったら。

今日から、今日からすべて始まるんだ。

 

そう考えていると、いてもたってもいられなくなって、母に電話しました。母はいつもどおりの声で、わたしはちょっと強がってわははと笑ってみたけれど、うまくいかずにちょっぴり泣きました。なにが不安かなんて言葉にできなくて、ただただ「大丈夫って言って」と、その一言を母にせがみました。

 

1人暮らしもアルバイトも大学生活も、大丈夫でした。きっとすべて大丈夫で、なんとかなるものなのです。でもやっぱり、新生活というのは不安よね。

桜はまだ、もうちょっと。