鯉のぼり
「道南ナンバーだな!」
晴れた休日、海でパンを食べていると、声をかけられました。ふりかえると、父母より少し上くらいのご夫婦が車からこちらを見ています。わたしの車のナンバープレートを指していました。
「俺も昔、道南に住んでいたんだよ」
わたしのナンバープレートは、地元で取得したそのまま。聞くと、旦那さんの地元はわたしが高校時代に通った街でした。旦那さんが車を降りてきました。
1970年のピークから約半分まで落ち込んだ人口。当時、街を照らした工場の明かりも今やすっかり落ちて、賑わったアーケード街は寂しい風の音を反響させています。
「俺がいた頃は、あの湾にかかるでっかい橋、なかったんだよな」
白く美しい橋は本当に大きくて、この橋を見ながら過ごした子らは、どのように育つのだろうと感動したものです。
「えっ、じゃああんた今ここに住んでるのかい?」
旦那さんは目を見開いて驚かれました。
「1人で移住してきたの?」
はい
「新卒で?」
はい
「仕事してるの?」
はい
まるで信じられないという旦那さんの顔に、ちょっと笑ってしまいました。
でも、海があってこれからの季節は最高ですね。
わたしが言うと、旦那さんは海を見やります。
「ああ、これからはニシンが釣れる。ここ数年は入れ食いよ。ちょっと竿をおろせば、鯉のぼりみたいに4、5匹ついてくるからな」
そんなに!それは、持って帰ってお料理する人が大変ですね。
旦那さんはバツが悪そうに笑いました。奥さんの待つ車のほうをチラリと見ます。
「じゃあ、そろそろ行くわ」
ありがとうございました。
よいお話、よい時間でした。