ほとほとの煮物

お口にあうかどうか

実家

わたしは、北海道の左上に暮らしています。就職を機にIターンして早5年ですが、出身は道南の観光街。すると、友だちやら親戚やらに会って必ず言われます。

「いつそこを出るの?」

なんと失礼な話だろうと思いながらも、でもやっぱり、へらへら笑って「いつだろうね」と答えるしかありません。実家があるわけでなし配偶者がいるわけでなし、わたしをそこに縛りつける理由はひとつもないのです。

 

「ほら、同級生のあゆちゃん、いまは実家で暮らしているそうだよ」

母づてに、同世代の友だちの近況を知ります。さっぱりした人なので、結婚やら仕事やら暗に意味を持たせることはしませんが、でもやっぱり、娘が車で5時間かかる場所で一人暮らしとなると、何かと心配をかけているようです。

そんな母の気持ちを知りながらも、「ふうん」と気のない返事しかできませんでした。わたしは、実家に帰る気はありません。

 

「ほら、寝るなら布団で寝なさい」

そんなこと、一人暮らしで言われません。そもそも、ごはんの後にダラダラと興味のないテレビを見ながら寝転がっているということがありません。ごはんを食べたら後片付けをしなければならないと思うし、仕事のことや趣味のことに時間を割きたいと思うし、明日を思ってはやく寝ようと思います。一人暮らしには、わたし以外わたしの暮らしを整えてくれる誰かがいないのです。暮らしのために、未来のために行うべき色々が、実家にいるとどこか遠くのことに感じられて、いつまでも興味のないテレビを見つづけてしまうし、SNSを見ながら夜更かしをしてしまうし、飼っている犬や猫にすり寄ってて居眠りしてしまうのです。

実家は嫌いではありません。むしろ好きです。でも、わたしは実家にいたらダメです。こうして文章を書くことだって忘れてしまうし。

 

わたしは、実家に帰る気はありません。