打ち上げ花火、会場から見るか?路肩から見るか?
ヒューーー…どおおおん
腹に響く音。わたしの肩も、ビクリと弾みます。まつ毛を撫でつけるマスカラを持つ手が揺れて、危ない危ない。うちの裏の港であがる花火は、毎年この時期、夏の終わりを呼び寄せるように盛大に行われます。暑さのために開けた窓の外から、普段は聞かない子どものはしゃぐ声や、若い男女の高い声が聞こえていました。
わたしはといえば、予定があって身支度を整えている真っ最中。ようやく化粧を終えて、髪をくくってサンダルをつっかけ玄関扉に鍵をかけていると、ちょうど廊下の窓いっぱいに、花火が打ち上がりました。
ヒューーー…どん!どん!どおおおん!
ここからも見えるんだ。隣家の屋根の上でパチパチ弾ける火花。きっと会場では、ここより大きな音で、BGMが入って、もっと見事なのでしょう。いいなあ。
カンカンカンカン
5センチヒールは、安い木造アパートの階段で高い音をあげます。階下についた拍子にまた、花火の上がる音。
わあ!きゃあ!すごいね、すごいね
暗がりから声。街頭の少ないこのあたりでは姿こそ見えないけれど、ご近所さんがご家族やお友だちを誘って夜空を見上げているのでしょう。
車に乗り込んで、予定の場所へ。その道中でも、橋の上、最寄りのコンビニ、広い公園、駅の裏なんかの、ふだん人が立ち止まるところを見たこともない場所で、多くの人が横並びになって空を見上げていました。
ヒューーー…どおおおん
ヒューーー…どん!どん!どおおおん!
打ち上げ花火、会場から見るか?路肩から見るか?
わたしは予定先へ向かう車の窓から。
来年こそは、会場から。