ほとほとの煮物

お口にあうかどうか

あかるい道のり

地元に帰るときは、たいてい夜です。

移動の時間が惜しくて、仕事おわりに車を走らせます。だから何度も通った道のりは、記憶のなかでいつも夜。

 

等間隔に並ぶ街灯、すれ違うヘッドライト、まばらに灯る家々の明かり。

夜ひとりで走らせる車から見るのは、昼の移動にも友だちとのドライブにもない景色です。

 

畑と牧草地のあいだに現れるまちでは、片側一車線の道路を、オレンジ色の街灯が浮かびあがらせます。人の歩く姿はなくて、トラックがぎりぎりをすれ違うばかり。そうして2、3本小路を横切ると、ひときわ明るい飲み屋街があります。幾本ものアーチに彩られ、色とりどりの看板、タクシーの表示灯が行き交って、夜に眠る街でそこだけが別世界。

 

もう少し行くと、空港があります。青のランプが滑走路を形づくり、立派なターミナルの明かりはやわらかく、人の気配を感じさせます。そこへ飛行機のライトが、ちかちかと点滅しながらやってくるのです。

 

道の駅で少し休憩。通路挟んで向かいに立つ人影に気づきました。星でも出ているのでしょうか、空を見上げています。けれど、天体観測に道の駅は明るすぎる。首を傾げたとき、ごうごういうエンジン音が頭上で大きく聞こえました。飛行機。エンジン音ばかりでなく、機体が風を切ってひゅんひゅんいう音まで聞こえて、よほど近いところを飛んでいるのだとわかります。すっかり音が止んだころ、その人は、伊豆ナンバーの車に乗り込みました。

 

太平洋で、イカ釣りの漁船が見られる季節です。真っ黒な海に、ぼつんぼつんと明かるい集魚灯。それが一定の感覚をあけて海の淵に並ぶので、水平線が、まあるく空と地上を隔てているのがわかります。

 

さて、海が見えてきたら、地元までもうひと踏ん張りです。

 

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