ほとほとの煮物

お口にあうかどうか

物件

田舎には、一人暮らしに適した物件がわずかです。田舎で働く若いひとは大抵実家暮らしだし、単身赴任者には社宅があります。賃貸物件の多くはファミリー向けの間取りで、一人暮らしには割高家賃。だから、好条件のお部屋は人気です。わかってはいるのです。

 

わたしは2階建ての木造アパートに住んでいます。1LDK風呂トイレ別で、飲み屋街へも徒歩圏内。一人暮らしの多い都会の物件と比べると少し家賃が高いけれど、このあたりではこれ以上ない好物件です。1階4部屋、2階4部屋の計8室、そのうちわたしは2階中ほどの部屋で、入居当初左隣には公務員のお兄さん、右隣2部屋は空室でした。

 

「あいちゃんの部屋って、湿気がひどいってほんと?」

ある日、会社に電話が入りました。電話当番は、1番下っ端のわたしの仕事。でてみると、別事務所で働く先輩でした。一緒に仕事をすることはほぼないので、何事かと身構えましたが、拍子抜け。

「たしかに部屋干しすると気になりますが…カビたりとかはないですよ、普通に暮らしてます」

「そっか!ありがとう!」

その日の夕方です。別事務所から帰ってきた直属の上司から、先輩がわたしのアパートへの引越しを決めたと聞かされたのは。

 

「2つ隣に引越してきました、よろしくお願いします」

そしてこの春、もう1人の入居者が。

先の先輩とは別事務所の、これまた会社の先輩でした。

わたしの右隣2部屋は、会社の先輩でうまっています。社宅と知らされて住むのと、一人暮らしと思っていたのにだんだん社宅と化していくのでは心持ちがちがいます。

 

ここは田舎。一人暮らしに好条件のお部屋は人気。わかっています、わかってはいるのです。