ほとほとの煮物

お口にあうかどうか

触れてみてわかること

猫が好きです。

犬だって兎だってハムスターだって好きだけれど、わたしにとっての猫への愛はずば抜けている気がします。

家のまわりに野良猫がいて、野良だから懐くことはないのだけれど、見かけるたび膝を折って「おいで」と呼びかける程度には気をやっています。

仕事がつまってくると、職場で猫を飼っている同僚に「猫みせてください」と写真や動画を求めます。にゃあと声を上げながら、家人にしか見せない姿で本能のままに動く彼らの姿を拝み、丁重にお礼を言って、また仕事に戻るのです。

住んでいるアパートはペット禁止。わたしの猫好きを見かねた上司が「あいちゃん、はやく猫飼いなさい」と言ってくれるのだけれど、それは到底現実的でありません。

だから、猫を飼っている実家に帰る機会は、わたしにとって一大イベントです。

 

他人でもないけれど、家人でもないわたしを見る彼の目は、懐疑心を濃く浮かべます。わたしの一挙手一投足にビクリと身体を震わせ、物陰からまんまるの目で監視します。まあ、わたしはといえば、撫でくりまわしたいし顔を埋めたいしゴロゴロ言わせたいと下心を抱いていますから、それは正しい反応でしょう。

だから、ゆっくり時間をかけて、時には大好きなブラシやごはんの力を借りながら懐柔するのです。

 

ゴロゴロ、ゴロゴロ

地の底から響くような声。ダラリともたれかかる肢体に、細められる瞳。毛並みは艶やかでつるつると滑り、そのまま首まわりまで撫で上げると、ふかふかと肉を感じます。首から顔を両手で包んで、指先で頭のてっぺんをくすぐると、存外厚みのある耳が前後に揺れました。

写真でも、動画でもわからないこと。触れてみて、初めてわかる魅力があるのです。わたしはそれを、めいっぱい堪能します。彼が「にゃっ」と短く鳴いて、それまでの様子をおくびにもださず、こちらを振り返ることもせずに去っていくその時まで。