ほとほとの煮物

お口にあうかどうか

実家には、猫がいます。

元野良の彼はどっしりとした体格の黒猫。保護した当初、鼻炎気味ですぴすぴ鼻を鳴らしていましたが、今ではすっかり健康です。ぽっこりお腹に毛並みをツヤツヤさせ、一緒に暮らす犬をからかっては家族に叱られています。

 

わたしは猫派。

するりと横をすりぬけようとする猫を捕まえては胸に抱きこんで、しばらくしたら「にゃん」と鳴かれて逃げられます。それが可愛くて、でも嫌われるのはいやなので、1日2回を上限に機嫌をうかがいながらかまいます。

 

「ふにゅ」

腹に手を回して引き寄せると、まるで潰されたみたいな声をあげる猫。尻を腿に落ち着けて、腹と腕を囲い込んで、わたしが三角座りのかたちをとると猫は諦めたように穏やかです。しばらくそうしてじっとしていると、猫の身体が、ふう、と一回り大きくなるのを感じました。

すんすんすん、と鼻を膨らませ、耳をぴくぴく動かします。ビー玉みたいな目がきらきらして、視線の先では、母が裏口の扉を開けたところでした。まだ冷たい春の風が、わたしと猫を撫でていきました。

 

猫は、外を眺めるのが好き。元野良なので再び野良に戻りかねないと、外に出してやることはありませんが、網戸越しに外を眺める姿は好奇心のような哀愁のような羨望のような、なんとも言えない様子です。すんすんすん、と鼻を膨らませて、小さな身体いっぱいに空気を吸います。どんな小さな情報も漏らすまいと、耳をぴんとたて、目をきらきらさせています。

「にゃん」とも「にゅう」とも言わない彼が何を想っているのかはわかりません。ただわたしは嫌われるのがいやなので、「にぃやー」と彼が大きく鳴いたとき、黙って裏口の扉を開けてやるのです。

f:id:ia_a:20220504184228j:image