ほとほとの煮物

お口にあうかどうか

推し怪談師

会社は年度末が忙しさのピークで、2月や3月はみな思い詰めた顔でパソコンに向かいます。わたしも例に漏れず、あらゆる資料で机上を散らかしながら、左耳には先輩・上司のひとりごと、右耳にはイヤホン。それは、社内に響く狂おしいキーボード音を遮りたいためか、もはや誰から発せられたのかもわからないため息から逃げたいためか。聞くのは、動画投稿サイトにアップされた「怖い話」です。頭を使わない入力作業や図表制作作業にピッタリなのです。

 

この世のものかならざるものか、実話であるか否かも怪しい、だからこそ魅力的な「怖い話」。そんなことが本当にあるのか、と思いを馳せながら仕事をしていると、目の前の仕事の山すら現実離れしたものに思えて、年度末の忙しさも乗り切れるのでした。その時期に怖い話を聞きたくなるのは、もはや、社会人3年目以降のお決まりでした。

 

けれど、今年はちょっと違います。例年通り2月、3月に聞き始めた怖い話が、春を迎え、夏を越し、冬になった今でも、聞き続けているのです。わたしの2021年は、空前の怖い話ブームでした。

 

奇しくも、ここ2、3年は世間的にも怪談ブーム。「怪談師」と名乗る人が増え、怖い話を語る怪談イベントが開かれ、怪談を競うショーレースが続々と立ち上がりました。わたしに怪談ブームが訪れたのも、いわば必然。片っぱしから怪談イベントの切り抜き動画を見て、怪談師のチャンネルを登録し、彼らの活動を追うために、大学時代に1度やめたTwitterを再開したところで、自分がその沼にずっぽり浸かっていることに気づきました。今や、推し怪談師さんがいるほどです。

 

けれど、誰に話をしようとも「あっ、その怪談師さん、わたしも聞いてる!」とはなりません。まあ、それはそうだろうとも思います。そこできょうはこの場を利用して、推し怪談師さんを紹介します。

 

【特別お題「わたしの推し」】

 


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【上里洋志】

沖縄出身、ユタの祖母をもつ上里さんは、その血を継ぐ自身もこの世ならざるものが見えるそうです。沖縄の暮らしや文化を感じさせつつ展開される怪しいお話は、興味深く恐ろしく…「ユタ」という真実味があるからこそ、惹き込まれます。あと、ふつうにお顔と歌声が好き。(バンドHalf-Lifeのボーカルさんです。バンドマンとしての生き様もかっこいいので楽曲もぜひ。)

 


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【伊山亮吉】

怪談好きを振り切って、怪談でしかコミュニケーションできない男・伊山さん。嬉々として怪談を語る姿には楽しさが滲みでて、怖いのにどこかこちらまで楽しくなってしまう不思議怪談師さん。豊富な持ちネタにはご自身の体験談もあり魅力的です。

 


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【吉田悠軌】

怪談サークルとうもろこしの会、会長であり、現代日本の怪談、オカルト研究の第一人者と言える吉田会長。豊富な知識の上で語られる現代怪談は、怪談らしい怖さながらどこか不可解さが残り、彼のなかで「怪談」が確立したものであることを感じさせます。

 


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【匠平】

怪談師北海道代表といって過言ではない、匠平さん。「飲み屋の兄ちゃん」スタイルの語りは親しみやすくも、しっかりと恐ろしい。磨かれた語りののち、ふふ、と笑いを堪えきれない様子に怪談への愛を感じます。エンターテイナーとしても場まわしや企画力が光り、匠平さんがこの冬まで所属していた怪談ライブバー・スリラーナイトのYouTubeチャンネルで彼らがお酒を飲みながらなんだかんだと話している動画は、一緒にお酒を飲みたくなる楽しさです。

 


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【夜馬裕】

卓越した取材力と構成力で、他に類を見ない怪談を有する夜馬裕さん。「怖い」ばかりでない、驚愕、嫌悪、疑念といった様々な感情を起こさせる語りは、唯一無二です。

本当にわたしは、夜馬裕さんの話を一生聞いていたい。フリートークでも回転早く物腰柔らかく繰り広げられる会話に、「推し」を直感しました。大好き。

 

 

この世のものかならざるものか、実話であるか否かも怪しい、だからこそ魅力的な「怖い話」。怖い、という感情はもちろんですが、わたしはその不確定ゆえの魅力に惹かれているのでしょう。怪談ブームがもっと広まることを祈りつつ、わたしの推し紹介でした。