ほとほとの煮物

お口にあうかどうか

わたしたちの自傷行為

「髪染めたの」

そう言って、頭を左右に振って揺らして見せる彼女。けれどそれは画面の向こうで、パソコン越しのわたしにはイマイチ違いがわかりませんでした。ただ、彼女の顔が晴れ晴れとしていたことが印象的でした。

「髪を切るって、やっぱり、自傷行為だと思うわ」

 

自傷行為について、さまざまな見解があるけれど、それはまた別のときに。

あの娘が自傷行為をして得る安心の - ほとほとの煮物

わたしはそれを「安心を得るための手段」ととらえていて、その話を以前彼女にもしていたのでした。もちろん、自らを傷つけて得られる安心が、すんなり肯定されるべきではありません。ただ、そうでもしないと拭えない不安があることにこそ、目を向けるべきです。彼女は、付かず離れずの距離を保ったのち決別しながらも視界の端で姿を追ってしまっていた男性と、本当のさよならをしたのでした。彼女いわく、いまの彼女の髪はこれまでよりワントーン明るく、これまでよりずいぶん軽いそうです。

 

また別の彼女は。

「おつかれ〜」

そう言って、お酒の入ったコンビニ袋をがさがささせながらやって来ました。気温が落ちてきたぶんをまかなって、立派なスカジャンを着ています。インナーは柄物のシャツ、パンツはダボっとした大きなシルエットで目を引きますが、その髪だけは耳の上で短く切り揃えられ、ついこのあいだ会ったときよりさっぱりしていました。

「自分で切ったの?」

「美容師さんに切ってもらうのと自分で切るの、成功率五分五分なんだよね」

そう言うけれど、切り口がずいぶんと鋭角に輪郭をふちどっています。彼女は、応援してくれていると信じていた長年の先輩から浴びせられた心ない言葉を、わたしに教えてくれたばかりでした。

 

自らを傷つけて得られる安心が、すんなり肯定されるべきではありません。ただ、そうでもしないと拭えない不安があることにこそ、目を向けるべきです。