ほとほとの煮物

お口にあうかどうか

コーヒーといちご

実家から、北海道の左上までは車で4時間。ぶっ通しで走り続けて4時間なので、トイレ休憩や飲み物休憩を含めると5時間ほど。その日はよく晴れていて、エアコンも必要ありませんでした。

 

燦々とさしこむ陽の光を感じながら、北へ。2時間ほど走ると雪が目立ち始め、さらに2時間ほど走ると雪の壁が現れます。それでも青空は変わらず、車内が暖められて暑いほどでした。薄く窓を開けて風を入れます。ごうごうという音がカーステレオをかき消してしまうので、後部座席の窓を開けることにしました。すると、風にのせられて車内に充満する香り。

コーヒーと、いちご。

 

コーヒーは、実家からもらってきたコーヒー豆の袋。「コーヒーメーカーがほしい」というと、母が押入れの奥から昔つかっていたというコーヒーメーカーを取り出してきてくれました。「つかえるか、淹れてみよう」と言って買ってきたコーヒー豆。コーヒー好きの母で、実家にはネルドリップのための道具や大層な置き型コーヒーミルがありますが、最近の口癖は「インスタントコーヒーもそれなりに美味しい」でした。ぎゃぎゃぎゃと大きな音をたてて豆を挽いて、コーヒーメーカーを試運転させたコーヒー豆の、その残り。

いちごは、母と2人で買い物に出かけた際「何か食べたいものはないの」と言われおねだりしました。旬のいちごは食料品売り場の目立つところに陳列されていましたが、輝くひと粒ひと粒に見合うお値段で、一人暮らしには手が伸びませんでした。「いちごが食べたい」というと、「そう」と母は陳列されたパックの中からひとつふたつ持ち上げて中身を吟味して、ひょいとカートにいれました。

 

食料品売り場や、実家ではそれほど気にならなかったコーヒーといちごの強い芳香。ふうと胸いっぱいに吸いこんで、北海道の左上、わたしの家までの道のりを急ぐのでした。