ほとほとの煮物

お口にあうかどうか

眠れない夜

「いや、その話きかせてください」

時計を見ると、日付が変わる30分前。彼女とわたしは画面越しに対峙して、かれこれ3時間半、話をしているということになります。アルコールが入るわけでなく、終始ワハハと馬鹿話をするわけでなく、3時間半。

 

ウイルス禍にオンラインがコミュニケーション主要ツールとなってから、わたしの周囲でも「オンライン飲み」というものが増えました。遠くに暮らす友だちと、時間や場所を気にせずに顔を合わせることができるので便利。とは思っていますが、わたしはあまり、オンライン飲みを好みません。

参加人数が増えるほど発言のタイミングが難しくなるし、微妙な空気感が伝わらないし、終電も閉店時間もないので終わり時がわかりません。それなら、パッと会ってサッと飲んでワハハと笑う、これまでの対面飲み会のほうがよっぽど気がラクで楽かったと思います。

オンライン飲みが終わるとき、いつも少し飲みすぎていて、「じゃあね、またね」と通話を切ったあと、事切れるようにパタリとその場で眠ってしまうのも嫌でした。オンラインという、近いようで遠い距離がもどかしく、そのもどかしさは解消されることなく、結果としてお酒をあおり誤魔化していたのでした。

 

でも、その夜は違いました。

時計など気にならず、お酒も飲まず、空になったマグカップをもてあそびながら、いつまでも話をしました。ついに日付がかわったとき、「そろそろ眠ろう」と通話を切って、さっさと顔を洗って歯を磨いてベッドに潜り込めばいいのに、なんだか胸がふわふわして、かと思えば頭はらんらんと冴えていて、きっと布団を頭までかぶっても眠れないだろうと思いました。さっきまでの賑やかさが嘘のようにしんとした部屋で、オレンジ色の照明を眺めながら、眠れない夜を噛みしめました。