ほとほとの煮物

お口にあうかどうか

映画的映画

「でたよ、"映画的" 映画」

わたしが頻繁にその言葉を使うものだから、先輩が口の端を吊り上げて言いました。そうは言われても、わたしはその、映画にしか出せない映画たる魅力を表現する言葉をほかに知りません。映画的映画。それは実によく表現された創作語であると思うのです。

 

物語の展開を行動や台詞ではなく、映像や音楽、俳優の物言わぬ演技力、作品全体を縁取る空気感で伝えてくる映画です。

 

たとえば、うだるような東北の夏。

窓を全開にして迎えた朝の、少しずつ気温が上がって肌に汗が浮かんでいく感覚。

釣りに出た川のせせらぎと、太陽の強い日差し。

浮き足立って蒸し暑いお祭りの夕べ。

静かながらどこか現実離れした、友だちとお酒を交わす夜。

官能的なまでの映像美とざわざわと感情をかき混ぜる音楽が、画面の向こうの夏をリアルにしていました。

俳優が押し黙る間、差し込まれる鮮やかな景色、彼らの表情を映すことで語られる映画の世界。

彼らが吸い込むその夏のにおいまで感じられるようでした。夏の終わりをつんざく虫の声が、耳について離れません。わたしはこの作品を、ぜひ夏に観たいと思います。

 

それは小説でも漫画でもアニメでもない、映画だからこそ表現できる世界観です。そういう "映画的映画" が、映画の世界にはあります。