ほとほとの煮物

お口にあうかどうか

田んぼにある季節

遅くなってしまった。
高速料金をケチって走る田舎道は街灯も車もまばらで、走り慣れた道を少し不安にさせます。町と町のあいだをつなぐのは田んぼ。山に囲まれた田園地帯です。

 


先を急いでいるとき、ふと、真っ暗な窓の外で、いつもより明かりが多いことに気づきました。

 


遠くを抜けるインターに、スラリと並んだほの赤い照明。
田んぼの真ん中に立って、何を照らしているのやらわからない電灯。
まばらな家々の窓からこぼれる室内灯。
どれもが普段より数多い気がして、背筋が少しヒヤリとしました。
その真ん中を走るのは、わたし一人…
けれど、すぐに気がついて胸を撫でおろしました。

 


雪が溶けて土が顔を出し、代搔きを終えて水が張られ、静かに田植えを待つ田んぼ。その田んぼにうつりこんで、真っ暗な窓の外、唯一目に飛び込む明かりが、いつもより多く見えたのでした。
そういえば、
朝、この道を通ったときには風のない静かな水面が鏡のようで、空の青と雲の白の眩しさに目を細めました。
夏、黄の強い苗が青い空を突き抜けるようにのびて、その間を抜ける風がいっそう涼しく感じられました。
秋、黄金色の稲穂が輝きながら、頭を風に揺らす姿がなんとも重たく悩ましくて、笑みがこぼれました。
冬、真っ白な雪が田園地帯を埋め尽くして、まるで人家を飲み込んでしまうような広さで、ちょっと怖くなりました。

 


田んぼが好きです。
田んぼにある、季節を見るのが好きです。

 

 

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