ほとほとの煮物

お口にあうかどうか

春と、ちょっぴりの夏

おでかけがかなわない2021年。昨年からつづくウイルス禍は、生活をぐにゃりとねじ曲げました。とはいえ、わたしは都市から車で2時間ほどのところに暮らしていて、それほど不満はありません。くわえて映画を見るやら文章を書くやらの室内趣味があるので、外出自粛を命じられてもそれほど苦労しないだろうと思いました。

いざ、外出自粛。意気込んで過ごした昨年2月末から3月は、後半になるにつれお酒の量が増え、気分が落ち込み、わたしは存外、好んで外出するタイプであったことを思い知りました。

 

今年の外出自粛期間は、5月の半ばから終わりにかけて。じっと我慢しておうち時間を過ごしたけれど、一度だけ、用事のために車を走らせました。風は柔らかく花のにおいをはらんで、陽差しが身体をあたためます。窓を開けながら乗った高速道路の風は強くて、とっさに閉めました。山を開いて作られた道に、視界は緑色。黄みを残した木々の新芽は、それでも夏に向けて着実に枝葉をのばしているようで、ところどころ深い緑色をしています。

 

春から初夏へ移ろうこの時期、自然は色彩を豊かにします。花の色、木の色、田んぼの色、空の色。それは、昨年のわたしは見ることのかなわなかった色で、一昨年のわたしは気づくことのなかった色でした。おでかけできず知るよしもなかった昨年、そして、毎週末でかけていたために微妙な変化を感じることのできなかった一昨年です。ウイルス禍はわたしたちの生活をぐにゃりとねじ曲げて、これまで当たり前のなかにあった大切なことをあらわにします。まあ、荒療治がすぎるけれど。

ひさしぶりのおでかけは、自然の色を、いっそう鮮やかに感じさせました。鼻から大きく吸いこんで、春と、ちょっぴり夏のにおいのする空気を、肺にいっぱいためました。