ほとほとの煮物

お口にあうかどうか

夏が

カエルの声。

ぎゃおぎゃおぎゃおぎゃおと、一匹や二匹では到底だしえない、おびただしい数のカエルが合唱しています。それはこの時期、この地域の風物詩といって過言ではないでしょう。田植えの季節です。

 

どこの田から聞こえてくるのかはわかりません。一番近い田んぼはここから車で20分。カエルとは、そんなに声を響かせるものでしょうか。川の上流に広がる田は、この時期、田起こしされて、冷たく綺麗な水をいっぱいに含ませてもらいます。そのとき、鏡のように空を映す様が好きでした。

田んぼに水が入ると、まるでスイッチを入れたようにカエルが鳴きます。大合唱を聞いていると、沈みゆく夕陽、赤と紫のグラデーションを残して群青に染まっていく空の端っこで、駅のホームの電灯がポツポツとともりはじめました。

帰ろう。

車のドアを開けると、ムッとした空気が溢れ出ます。そういえば、きょうは二十度まで気温が上がったのでした。窓を全開にして、遠くでわあわあと鳥が鳴くので、カーステレオの音量を下げました。

コンビニを右折。

高校生でしょうか、ひょろりと長い手足をさらした男の子が二人、軒先でソフトクリームを食べています。コンビニから漏れる店内灯を背負って、真っ黒になった顔は見えなかったけれど、穏やかに笑っていることだけはわかりました。

 

住宅街の隙間から、細い細い月が顔をのぞかせます。車の窓から吹きこむ風はやわらかく髪をさらって、ああ、夏がやってくるんだ、と思いました。