いけない
寝てしまいました。
夜の長距離ドライブは眠気との戦い。戦いに、負けました。
休日のおでかけ、明日は仕事とつく帰り道。まちの中では、眠気を感じることもありません。すれ違う車、追い越していくバックライト、角を曲がり、信号が点滅して、アクセルとブレーキを交互に踏みます。けれど、まちをはずれて畑や田んぼの間にやってくると、車もなく信号もなく、ひたすらの一本道、等間隔に並んだ街灯だけが鮮やかで、そのうちに、ゆっくりゆっくり、瞼が下がってくるのです。
いけない。
道の駅へ車を停めて、シートを倒して、助手席に置いたままだった上着を毛布代わりにかぶりました。
目を覚ますと、眠る前と変わらない景色。
人影のない道の駅で、オレンジ色の街灯が煌々と照らします。
時計は、長い針がひとまわりするところ。
いけない。
明日は仕事なのに。こんなところで眠っている場合ではありません。
夜の深まった田舎道に、車はすっかりなくなりました。
けれど、わたしの目は冴えています。
睡魔は、まず視覚を奪うそうです。視界を狭め、通常なら方々へ走る注意が1点にしか向かなくなり、反応を鈍らせます。
それならば、ひと眠り終えてすぐのわたしは、視界良好、注意力瞬発力、ともに抜群ということです。1時間ほど前よりも開けた視界には、1時間ほど前には気づかなかった星がちらついていました。
すれ違う車のない田舎道。田んぼのまんなか、やがて街灯もなくなって、星の瞬きがよほど大きく見えます。こうして見ると、星には大中小、赤緑黄といった違いがあります。いつかのプラネタリウムで見た星座が、頭の隅をよぎって、目の前に広がる星々をつなぎます。遮るもののない眺め、星空の果ては、ぽっかりと遠くの山が切りとっています。向こうの山からこちらの山に至るまで、空は帆を描くようにまあるくて、地球が球体であることを思い知らされます。
いけない。
明日は仕事なのです。