ほとほとの煮物

お口にあうかどうか

冬の音

風の音が変わった。
住宅街を鳴らす靴音を聞いていて、思いました。
お酒を飲んだ夜は、ことさら星が輝いて、派手に靴音が響いて、ふわふわと身体が軽くて。異世界を行く感覚が心地良くて歩いて帰るのですが、その日は殊に身を切るような風が吹いて「あぁフラリと飲んでフラフラ帰るのも今シーズンここまで」と寂しさを覚えたのでした。

夏と冬、季節によって風が異なります。
暴風に名高い「北海道の左上」ならば、その差も歴然。オオオと深くから空気を震わせて、ヒイイと腹の底まで吸い込むように、冬の風は恐ろしい音をたててわたしたちを脅かします。まるで生きて呼吸するように、物陰から睨めつけるように、冬の訪れをほのめかします。

季節によって変わる音というのは、風が一定の波ではなく複数の束であることに要因があるのだそう。それぞれスピードも密度も異なる束が、地形や障害物はもちろん、気温や湿度、気圧の異なるところにやってきて摩擦することで音を起こすので、特にそれらの要因が変化する冬と夏では、音も大きく異なるのだとか。

まるで、穴倉からこちらを窺うような冬の風。
穏やかに寝息をたてるような夏の風。
そう考えると、風も生きているような気さえします。

それが、つい2週間前。
窓を打つ風は「変わった」なんてものではなくて、窓枠ごと室内に押し入って来そうな質量に、パラパラと雪の音をはらませています。
そういえばこの疑問は、「暴風」の冠詞がつきそうなこの地域に越してきて初めて抱きました。夏と冬を繰り返して3度目の冬を迎えた今年、その疑問は浮き彫りになって、インターネットで検索するに至りました。厳しい自然が人を育てるとは、まさにこのこと。利口になった。

今年も冬が始まります。
長くて、険しくて、3度目の冬が始まります。

 

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