ほとほとの煮物

お口にあうかどうか

重要な役目

どん

まだ幼いとき、クリスマスの夜は家族でパーティーをしました。当時、父は仕事が忙しく、わたしたち姉妹が眠る準備をすっかり済ませたころに帰宅していました。でも、クリスマスの夜は、できる限り急いで仕事を切り上げていたのでしょう。いつの思い出にも、父の姿がありました。父の役目は、重要でした。

 

テーブルの上には、カラリと揚がった骨付きの鶏肉、彩り鮮やかな手巻き寿司、この時期には高価なフルーツの盛り合わせもありました。まんなかには、もちろんケーキ。すっかりたいらげて、キッチンで母と3人お皿を片付けているころに、

どん

重たい音がするのです。

 

「おっ」

1人居間に座っていた父が、高い声をあげます。

「なんか音がしたぞ!」

わたしと妹が、顔を見合わせます。妹の目は期待にキラキラと輝いて、頬は一瞬のうちに紅潮していました。

「玄関見ておいで!」

父の声に、決して広いとは言えない家の中を玄関まで、全速力で駆けるわたしと妹。うしろから「転ぶよ!」と母が叫ぶ声がします。

玄関を開けると、ひゅう、と吹き込む冬の風。細かな雪がまじっていて、冷たさにじんわり涙がでます。玄関の明かりが漏れ出して、照らされたアプローチ。きゃあ、と歓声。うっすら白い地面には、綺麗にラッピングされたプレゼントが置いてあるのでした。

 

わたしはもう大人で、1人暮らしをしています。ある時は友だちと、ある時は恋人とクリスマスの夜を過ごしました。クリスマスだからといって、実家に帰ることはありません。

けれどやっぱり、家族と過ごしたクリスマス、玄関を開けたときに髪をさらった冬の風と、目に飛び込んできたプレゼント、満足げに笑う父の顔が、いまでも忘れられません。