ほとほとの煮物

お口にあうかどうか

大人になったら

この春、小学生になる子どもたちにインタビューしてきました。住んでいるまちと両隣をあわせて3市町、一人一人にマイクをむけて、1年生になったら頑張りたいこと、将来の夢をききました。

 

最初のインタビューは、車で30分ほどの隣町。出席番号で最後の彼女は練習してきた応答を忘れてしまったようで、まっすぐ左上を見つめながら黙り込むばかりでした。いくら時間がかかっても良いのだけれど、彼女が良くなかろうと、思い出せるように話しかけます。

 

「大人になったら何になりたいですか」

「………」

「…何になりたいかな〜」

「………」

「さっき〇〇ちゃんはお菓子屋さんって言ってたな〜」

「………」

「〇〇くんは漁師さんだって」

「でも君は女の子だから、漁師さんは違うかな?」

「でも今の時代、男の子だから、女の子だからって職業決まらないよね、漁師さん、いいよね」

 

彼女の返答はすっかりなくて、わたしのひとり言。

 

 

「わたしが幼稚園の時は、何になりたかったかな…」

「そうだ、お花屋さんになりたかった」

「でも小学生になると、学校の先生になりたくて」

「あとインテリアデザイナーにもなりたかった」

「知ってる?インテリアデザイナー。お部屋の家具を選んだり置き方を考えたりするんだけど…」

 

わたしは未就学児童を相手に、何の話をしているんだ。いや、逆に何の話をすれば良いのだ。少しでも返答の糸口になればと、あれやこれや話題をたぐるけれど、彼女はじいっと左上を睨むばかり。広い教室にわたしと彼女だけ向かいあっていて、向こうで唸るストーブの音だけがして、たっぷり5分間を経て彼女の答えは「お店の店員さん」でした。

 

先生にお礼を言って、車に乗りこんで、カーステレオを入れて、もと来た海岸線を戻る30分。

幼稚園児の将来の夢。

わたしが振り返る将来の夢。

子どもたちは考えて考えて、とっておきの将来の夢を教えてくれたけれど、わたしの口からこぼれた25年分の将来の夢は話しきれませんでした。

これまで、いくつの夢を語ってここまで来たんだろう。

 

行きすがら聞いていた女性ボーカルが深く艶っぽい声で歌いあげるヒップホップは、強く響きすぎて消してしまいました。

半疑じゃない

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