作品
年末年始、さまざまな映画がテレビ放送されていました。わたしはこの時期、ふだん見ないテレビの放送予定表を隅から隅までチェックします。
放送予定表には、映画のタイトルはもちろん、放映年や出演者、大まかなあらすじとともに、テレビ局が番組表の制作に際してつけたであろう、宣伝コピーが並んでいます。「往年の名作!」とか「不朽のラブストーリー!」とか、そう言われると見たくなっちゃう、キャッチコピー。
でも今年の年末年始映画は、ちょっと違いました。
「こんな時代だからこそ」
「マスクをつけなければ生きられない世界で」
「それでも、生きていく」
時世でしょう。ウイルス禍に一変した暮らしを揶揄するようなコピーが目立ちます。視聴者の興味をひいて、番組を見てもらうためのキャッチコピーですから、共感性の高い文句が好まれるのはわかります。けれどそれを、さもその映画作品のテーマのように語って気をひくのは、なんだか面白くありません。
キャッチコピーをつけられた作品は、「マスクをつけなければ生きられない世界」が主題ではなく、「マスクをつけなければ生きられない世界にしてしまった人間の愚かさ」がテーマの映画だし、「それでも、生きていく」映画ではなく「そうあることを選んで、生きていく」映画であったのに、煽り文句ひとつで、なんだかまったく、別の作品のようです。
世の中にでている物事はすべてそう。そうして人の目に触れる機会が増えていると言ってしまえばぐうの音も出ませんが、作り手の気持ちがこめられた「作品」は、なるべく、正しい意図で然るべき人に届いてほしいと思います。
とはいえ、わたしが思う作品の「意図」も想像にすぎず、監督の「意図」はもしかしたらまったく別のところにあるかもしれないわけで、だからこそ、「作品」は面白いのだけれど。