ほとほとの煮物

お口にあうかどうか

いつかの彼女

「あ、彼女だ」

彼女ではないけれど。

休日のベッド、すっかり高くなった陽を浴びながら携帯を眺めていました。「人気ポップアーティストが認めた!次世代ポップ」なんてタイトル記事を読みながら、人気ポップアーティストが認めた次世代ポップアーティストを検索していたときです。

メロディやリズム、ボーカルの声を聞いて、彼女を思い出しました。

 

一昨年の夏、友人たちとドライブ。

木々をくぐる道を湖めざして走りました。木漏れ日の心地良いその日、空はぬけるような青で、もくもくとつまされる雲が遠くでぽっかり浮いていました。追い越す木は一様に伸び伸びと枝をのばし、陽光を受けて黄色にすけていました。

誰もが認める夏の行楽日和、彼女は深い青のワンピースと爽やかな白いパーカー姿で現れました。頭には、大袈裟な鍔広帽子。知りあった頃は小学生で、ひょろひょろと細い身体に、クラス替えのたび先頭を争う身丈のせいで妹の感が強かった彼女も、高校に上がる頃ぐんと背を伸ばし、ひょろひょろ細いのは昔のままで、すっかり綺麗なお姉さんです。

新車を買ったという彼女の助手席で、お洒落なカスタムに「いくらしたの」なんて下世話な質問。カメラを向けると、強い夏日を避けるサングラスをして気障なポーズ。笑い声が響く車内で時々訪れる静寂を、ステレオがさらっていました。

その時に聞いた、メロディ、リズム、ボーカルでした。

 

正確にはまったく違うアーティストだけれど、雰囲気が「彼女」という感じがしました。絶対、彼女が好きそうなメロディ、リズム、ボーカルでした。

そういえば、彼女は元気でしょうか。

休日のベッド、真上に掲げた携帯の検索画面を閉じて、SNSを立ち上げたのでした。

 

魔法使いのマキちゃん

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