ほとほとの煮物

お口にあうかどうか

楽しいままに

カラオケが苦手でした。

音楽が好きだけれど聞くのは男性ボーカルばかりなので、低音が上手く出せません。女性ボーカルを歌おうとしても、記憶が曖昧なので曲途中でメロディを見失います。結果上手に歌えずに、そんな自分が恥ずかしくて、カラオケを敬遠していました。

 

先日、人生初の一人カラオケに行きました。

仕事や生活の鬱憤と、ライブに行けない不満がないまぜになって、「大音量で音を浴びて大声を出したい」欲求が爆発したのです。

カラオケなんて、2年ぶり。妹と行って「本当にあなたは歌がうまいね」と、彼女が3曲歌う休憩タイムに1曲いれるペースで歌った以来です。受付の勝手をすっかり忘れていて、スタッフさんに促されるまま通された部屋は、奥まった突きあたりにありました。平日夜に一人カラオケするOLへの配慮でしょうか。

今のカラオケは、じっとり染み付いたようなタバコの匂いがしません。薄赤い照明は記憶どおり。荷物を置いて、タッチパネルを引き寄せると、スタッフさんが飲み物を持ってきてくれました。さあ、ここから1時間、わたしはこの部屋で1人きり。

 

カーオーディオで流す定番曲、PVが好きで何十回と繰り返し聞いた曲、朝、身支度を整えながら口ずさむ曲。両手で握っていたマイクは、いつしか片手で。伴奏にかき消されるほど囁くような歌声は、マイクもいらないほどお腹の底から。そのうちに座っていられなくなって、立ち上がり身体を揺らします。この部屋には、比べる何かも、反応を気にする誰かもありません。ただ、楽しいままのわたしだけ。

わたしは、カラオケが苦手だったのではなく、比較して得られる反応に怯えていました。大音量で音を浴び、大声で好きな歌詞を叫ぶ。その行為に、誰が文句をつけましょう。上手い下手がありましょう。

 

甲高い着信音。

「ルーム時間10分前となりました、延長も可能ですが、いかがいたしましょう」

「1時間、延長お願いします」

  

シンプル

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