ほとほとの煮物

お口にあうかどうか

だめな大人

あたたかい日が増えました。

先の休日は明け方ベッドへ入ったというのに、容赦なくそそぐ陽光に目がさえて、布団のなかはぬくすぎるし窓の外は誘うような青空で、たまらず起き上がりました。出かけたいけれど出かけられない休日。掃除をすることにします。

 

冬のあいだ暖房費を少しでも節約しようと、2重サッシの内側に緩衝材のプチプチを貼りめぐらせました。これによって窓の開閉は不可能になり、換気はキッチンの換気扇と玄関のみ。ワンシーズンを経て滞った空気を、しっかり入れ替えることにしました。

透明な緩衝材が光を遮ることはなかったけれど、やっぱり窓もプラスチックも隔てずに差しこむ太陽は、よっぽど澄んでいます。まっすぐ正面から受け止めた風は、かすかな温度と土や花のにおいを茫々とさせて、深呼吸。胸いっぱいに吸い込んだ春のにおいに、わたしの肺も、ワンシーズンを経てずいぶん侵されていたのだと気づきます。レースカーテンがそわそわと踊って、部屋の隅に溜まった冬の鬱憤をふき飛ばしていきました。風に背押されて掃除機をかけ、ずっと横目にして積みあげた書類や雑誌の山を崩し、途中で見つけた記事に気をとられてていると、

 

風のにおいが変わりました。

やさしくてあったかい、大きな生き物に包まれるようだったにおいが、いつまでも手を振ったあの別れ際のにおいに変わっていました。鼻の奥をツンと刺激して、すぐにいってしまう、あのにおい。たまらず、窓を閉めました。それでも、部屋のなかはもう、すっかりそのにおいなのでした。

 

遠くの方ではカモメやスズメよりカラスが鳴いていて、ほの赤い陽が窓から忍びこんでいます。逃れたくても逃れられない、休日の日暮れ。奮い立たせるように、ビールのタブをひいたのでした。だめな大人。