ほとほとの煮物

お口にあうかどうか

偏頭痛

花のにおいがしました。

2週間ぶりの雨。気にならないくらいの雨粒が落ちては止んでをを繰り返していた午前中。陽が傾きだすと、さあ、と音がするほどの滴がまちをすっかり包みました。突然の気圧の変化にわたしの身体は耐えきれず、つくつくと眉間の奥底を突いていると思ったら、それは吐き気に変わって、夜の予定をキャンセルせざるを得なくなりました。歯がみをしながら一人暮らしの部屋へ帰り、鞄を投げだし、スカートも脱がず、化粧も落とさずにベッドへ。

 

夕方、こんなに陽の高いうちからベッドに沈むこともありません。大人しく天井を見つめながら、窓の外でしたたる滴のリズムを数えます。少し身体が楽になったかと思って起きあがれば、頭蓋骨の真ん中で鉛の玉がぐわんと揺れて、またベッドに倒れこみました。頭痛は窓の外の明るさに比例して、暗くなれば病み、明るくなれば和らぐようでした。

顔を横に向けると、シクリ、とまぶたに痛み。じわじわじわじわ、下瞼のふちを伝って広がった痛みは、目頭も目尻もすっかり覆って、おしまいに下瞼では支えきれなくなりました。

あっ、と思ったとき。

溢れた涙が、意に反して頬を伝います。顔に道をつくって流れる滴をそのままに、まぶたをおろしました。

 

どれくらいそうしていたでしょう。

窓の外はすっかり暗くて、ひっきりなしにしていた滴のリズムは止んでいました。じっとりと肌を覆う熱を逃したくて、窓を開けます。

ふう、と雨上がりの風。

 

夜になると花のにおいがするの。

日中はしないのに。不思議ねえ。

 

母の言葉を思いだしました。

花のにおいが強くなるのが夜なら、雨上がりはよっぽど濃い。空からしたたる滴に首をもたげていた花々が、雨上がりに、待っていましたと上向くように、閉じ込めていた芳香をいっせいにはきだす雨上がりの夜。

ぐう、と大きく深呼吸。体内の空気をまったりとした花のにおいでいっぱいにして、暗い部屋の明かりをつけました。

 

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