ほとほとの煮物

お口にあうかどうか

銀の中扉

1年くらい前に150ページほどを読んでそのままにしていた本を、開きました。ハードカバーの装丁が美しくて、白を基調にしながら、中扉に1枚差しこまれた銀の1色刷りページが印象的でした。一昨年、映画化されたのを機に原作を読みたいと古本屋で買ったのです。

 

作者は、ユーモア溢れるストーリーに古風な文章を連ねる方で、これまで読んだどの本とも違う雰囲気に惹かれています。主人公に、学業もプライベートも鳴かず飛ばずの大学生を据えることが多いのも好き。しかし映画化されたその本は、開いてみればユーモアも古風も鳴かず飛ばずの大学生もなくて、少年とお姉さんの一夏の冒険物語でした。真っ白なハードカバーに銀色の扉ページがぴったりの、すっきりと瑞々しい物語でした。150ページほど読んであまりに眩しくて閉じた本を、ついぞ開かなかったのです。

 

映画化されたDVDが、近所のレンタルショップで旧作まで降りてきました。映画の公開、レンタルの新作、準新作を経て、旧作まで。わたしは随分、その本を寝かせていました。それで、1年ぶりに黄色の紐栞を引いて、半分ほど経たページを開いたのです。

 

少年とお姉さんが会話していました。

季節は夏で、雨が降っていました。

お姉さんは眠り、少年はそれを見ていました。

 

本を閉じました。黄色のしおりを、銀色の扉ページまで戻します。

1年前とはいえ、ストーリーの展開を覚えています。少年が綴るノートと描く未来像、お姉さんと共有する不思議、夏を駆ける彼らと、少年の、お姉さんに寄せる想い。覚えているけれど、1年も寝かせておいて150ページも過ぎたところから読み返すには、あまりにもったいないと思いました。それほど、綺麗な文章でした。ストーリーばかりを追うのではなく、もう一度はじめから、一言一句たぐりよせて彼らの物語を味わうことにしました。

 

ペンギン・ハイウェイ (角川文庫)

ペンギン・ハイウェイ (角川文庫)