ほとほとの煮物

お口にあうかどうか

花のにおいとウイスキー

夜になると花のにおいがするの。

日中はしないのに。不思議ねえ。

母が言いました。

 

バーベキューシーズン到来。実家では、会社員の父が休日のたびにコンロ、イス、タープまで出して火をおこします。母や妹は外で肉を焼くことにそれほど魅力を感じていないようだけれど、わたしは、星空を見上げながらダラダラとお酒を飲めるので大好き。わたしが実家に帰れば、いつもは発泡酒1缶でも小言を食う父もダラダラとお酒が飲めるので、雨だろうが風だろうが火をおこします。

 

陽が傾いだころから父は炭を組み、わたしは台所で食材の準備。すでに缶ビールが空いています。あたりが赤く染まりはじめたら、缶を片手にわたしも庭へ降りて、じわじわ肉やら野菜やらが焼けるのを見ながら杯を重ねます。すっかり陽が山に帰って、星がちろちろしはじめたら、缶からグラスにもちかえて、父と2人で選んだお酒を。その日は、ウイスキーでした。

 

母や妹も庭へでてきて、家族で円をつくります。母は食が細くて、肉や野菜を少しつまんでは囲む明かりの外へ消えてしまいます。すっかり暗い向こうの方から、ざくざく土をかいたりかちゃかちゃスコップのなる音が聞こえます。そうしてしばらく音をさせては、思い出したように輪の中に戻ってくるのでした。

 

夜になると花のにおいがするの。

日中はしないのに。不思議ねえ。

母が言いました。

もしかしたら、母はそのにおいに誘われて暗がりに消えてしまうのかもしれません。だってわたしは、揺らすたびに手のなかでかろかろなる、ウイスキーの煙たいにおいしか感じなかったのですから。

どこか遠いところで、寝ぼけた鳥がぴょろろと鳴きました。

寝ぼけていたのは、わたしかもしれません。