カマをかける
ちょっといいなと思っていた人が、既婚者でした。残念。
でも、それにしたって笑ってしまうほど滑稽な方法で、その事実を知りました。カマをかけたのです。
ずいぶんとお会いする機会があったけれど、左手の薬指はいつでもまっさらで、ご家族の話などついぞされなかったので、期待を寄せていました。
その日は2人で、小学6年生の名前が並んだ名簿を眺めていました。一筋縄ではいかない読み方や非常用漢字に、
「読めませんね」
「読めませんねえ」
なんて雑談。ふと、この質問を思いつきました。
「お子さんのお名前は?」
カマをかけたのです。否定すれば独身だし、肯定すれば…彼は少し目を見開いて、ふふ、と控えめに笑って、
「うちはなんも、普通ですよ」
あまりにもあっさりとした風で、それがまた可笑しくて、大袈裟に笑いました。
そういえば、昔にもこんなことがあった。
「サンタさんは親なんだよ!」
小学6年生、12月、放課後の教室。友人らと話をしていて、のっぴきならない話をつきつけられました。わたしは長女で、3つ離れた妹と一緒に、毎年サンタさんの来訪を楽しみにしていたのです。
サンタさんは、1年に1度だけ、良い子にプレゼントをくれるんだ。
残念ながらその選別に落ちてしまった友人には、親がプレゼントをくれるのかも。
サンタさんが親だというのは、友人の両親の優しい嘘だ。
わたしは思考を巡らせながら帰路について、家につき鞄をおろして手を洗ってうがいをし、キッチンに立つ母のもとへ行って、何食わぬ顔でたずねました。
「サンタさんって、親なんでしょ」
カマをかけたのです。
違うよ。
サンタさんはいるよ。
そんなこと言っていると、サンタさん来ないよ。
そう言ってほしかった。
しかし母は「そうよ」と、いかにもあっさり言いました。
カマをかけて、いいことがあった試しがない。小学6年生のわたしを抱きしめたい気持ちです。