美術室とパレット
中学時代は美術部でした。
美術室は、わたしたちの城。教室が並ぶ第2棟から渡り廊下をわたった第1棟、2階の奥まったところにありました。校内トレーニングする運動部からも、各教室でパート練習する吹奏楽部からも遠くて、校舎のなかでそこだけ切り離された小島のようでした。教室で目立つ方ではないわたしたちは、毎日、授業が終わるとそこへ逃げ込んで、陽が暮れるまで過ごしました。美術室は絵の具と紙のにおいがいつでも充満して、安心しました。
わたしは特に、水彩絵が好きでした。というか、水彩絵の具が好きでした。
水を含んでじわりと広がる絵の具。重ねれば重ねるほど色が濁るので、ちょうど良い所で筆を止めなければなりません。わたしは欲張りだから、いつも、色を足しすぎて水を合わせすぎて、紙が汚くなっていきました。でも、好きでした。
水彩絵は、描きはじめるとおしまいまでパレットを洗いません。同じ色は2度と作れないし、絵の具が固まっても水をさせば使えるので、パレットへ絵の具をだすとそのまま完成まで。だから、水彩絵の具で描きあげられた作品とは別に、パレットという、この世に1つだけの作品が生まれるのです。
パレットは、わたしがああでもないこうでもないと試行錯誤した作品以上に汚く、でも、美しかった。まっさらなところはひとつもなく、かたまりで残った絵の具がつやつやして、たくさんの色が水をたたえて薄ぼんやりと染みていました。わたしは、作品以上に心惹かれ、パレットこそ大事に残しておきたい気持ちになったのでした。
*****
美術部時代の友だちが大人になって、絵本をだしました。
キュートでコミカルな内容に、グラデーションや色遣いがビビットでえぐい。
眺めていられる一冊です。