胸おどる駅
北海道一の都市、札幌には、地下鉄があります。45にのぼる駅、0時まで走る電車は、人々の主要な移動手段です。
わたしも、大学時代は地下鉄をつかっていました。眠い目をこすって一限に通った大学、だるいだるいと思いながら出勤したバイト、胸をばくばくと鳴らしながら出かけた就職活動、アルコールのまわる頭で無心に乗りこんだ終電。生活には、地下鉄がつきものでした。
なかでも、特別に感じる駅があります。
暮らしたまちの最寄り駅、大学のあった駅、バイト先の駅、買い物や遊びに決まってまちあわせた駅。どれも思い出深いですが、楽しい思い出「だけ」がつまった駅。札幌のはずれの、終点駅です。
初めてその駅を利用したのは、中学生のとき。
美術部の活動で、美術館巡りをしました。郊外の美術館は、地下鉄とバスを乗り継ぎます。まだ地元に暮らしていたころ、一大都市の札幌で、地下鉄に乗るなんて一大イベント。それも、友人や先輩と乗る地下鉄は新鮮で、見知らぬ市街地を切り開く地下鉄に、胸が高鳴ったのを覚えています。
大学のサークル活動でも、その駅は集合場所でした。
せっかくの夏休み、みんなで思い出をつくろうと、コテージを借りてキャンプをしました。ドラマや漫画で見るような「大学生」の思い出。1年生の夏でした。
大好きなバンドがアリーナツアーをした時も、その駅が最寄でした。
小さなライブハウスから応援していたバンド。ライブ後、夏の終わりの風が心地よく、運行していた送迎バスには乗らずに、公演曲を口ずさみながら駅まで歩きました。
「地下鉄」とはいうけれど、中心部を6駅ほどはなれると地上に出ます。シェルターがすっぽりと線路を覆うのが、電車と違うところ。くすんだシェルターの透明プラスチックが外の景色をけむらせて、光ばかりが差しこんで、よく見えないことがよけいに期待を高めて。
「つぎは終点」
その駅は、わたしの胸をおどらせます。