こでまり
「あいちゃんって、花とか木とか、植物の名前をよく知っているね」
嬉しくなりました。わたしが「なりたい大人」とは、「ふいに見かけた植物の名前を自然に口にできる人」です。
たとえば、道を歩いているとき。
目を奪われた花や、影をつくる木、どこかから薫る青っぽいにおい、地面に転がる果実の名前が、どれほどわかるでしょう。もちろん、知らずとも良いことです。けれど、知っていると暮らしが豊かになるように思います。
「春だね、雛菊が綺麗だね」
「ああ、ポプラの綿毛が飛んでいるよ」
「どんぐりがいっぱい!ブナの森なんだね」
そうして空を仰ぐ、あるいはしゃがみ込む大人は子どもっぽいでしょうか。でも、胸いっぱいに吸い込む自然のにおいを多くの大人が忘れてしまっていて、だからこそ、大切にしたいと思います。
「あの花、なんだとおもう?」
だんだん晴れの日が増えて、少しずつ気温が上がり始めた6月の昼下がり。気だるい平日、昼休憩に持参した冷凍ごはんを電子レンジで温めながら、窓の外を眺めていたときのことです。隣接する公園の生垣には、見事な白い花がついていました。葉の緑に負けないくらい、大きいぼんぼりのような白い花。写真を撮って、母へラインします。
「コデマリじゃない?」
すぐに返信。そういえば、以前その公園をぐるりと歩いたとき、白の小さな花が集まり、黄の花糸が繊細に彩るその様子を目にしたことを思い出しました。
職場の2階から隣の公園までですから、ざっと50メートルはあるでしょうか。送った写真は、とても鮮明であるとはいえません。けれど母は、ものの3分ほどで花の名前を言い当てました。そうか、あの花は「コデマリ」というんだ。
「良い公園ね、きょうはお休み?」
つづく母のメッセージ。
仕事だよ、と返しながらわたしは得心がいきました。
わたしは、母のようになりたいのかもしれません。