ほとほとの煮物

お口にあうかどうか

虹の記憶

「虹だよ!!!」

廊下で同級生が叫ぶ声に、わたしばかりでなく、2階に並ぶ教室それぞれからひょこひょこと顔が覗きました。わたしたちが、走る一歩手前、競歩ほどの速さで廊下を急ぐと、下級生たちもぞろぞろと続きます。2、3人、いかにもやんちゃな風の男の子と抜きつ抜かれつしながら同級生が手招きするほうへ。体育館につづく渡り廊下でした。子どもが二人並んで顔を出せるほどの窓。そのすべてで、本校生徒1年生から6年生までが肩を寄せあっています。わたしは幸い6年生で、学年でも背の高い方だったので、生徒たちの頭の間から、窓の外を覗けました。

虹でした。

雨上がりの校庭は、ところどころに水たまりができて、雲の合間にのぞく青空を映しています。緑色の野球フェンスの1番高いところより少し上に、虹の半円がぽっかり浮かんでいました。あちらこちらで高い声が起こって、どこかで「虹は光の反射なんだよ」「1番内側は紫って決まっているんだ」なんて話が聞こえます。生徒のなかにはちらほら先生も交ざっていていました。どちらかといえば好きな先生で、子どもたちの興奮を諫めることなく、同じ顔をして窓の外を眺めています。そういうところが好きなのでした。自然現象を真摯に受けとめて、新鮮な気持ちで喜び楽しむ。そういう大人になりたいと思いました。

オレンジの陽がわたしたちの後ろから差し込んでいました。窓に集まる生徒それぞれの頭のシルエットがくっきりと、虹の下、校庭に長い影となってさしています。わたしは、虹に夢中になる生徒たちのなかで一人ふりかえり、西日のまぶしさに目を細めました。

 

虹だ。

先日、北海道の左上にも虹がでました。

日曜日の夕方、あと30分もすれば陽がすっかり落ちる頃。出先から帰って、夕飯を買おうとしたスーパーの駐車場でした。ふいにあの日の、子どもたちの歓声が聞こえた気がしました。わたし以外に、その自然が見せる奇跡に注目する人はいませんでした。