難儀な体
「本当にごめん!ちょっとおでかけしてくれない?」
突然の電話。アパートの大家さんから、休日、午前11時少し前のことでした。その日はたまたま家にいて、窓から差し込む日差しに起こされ、午前中から起き出す週末も珍しいからと、家事やら何やら午前中のうちに片付けて、陽のあるうちにビールでも開けようと考えていました。外出の予定は毛頭ありませんでした。
「本当にごめんね…晴れている今日、このタイミングで排雪しなきゃ、駐車場が埋まっちゃうから…1時間くらい、車を移動してくれる…?」
北海道の左上は、近年稀に見る豪雪。この状況を目の当たりにして、くわえて大家さんのあまりに申し訳なさそうな声色を聞くと「嫌だ」とは言えませんでした。
スキーウェアの上着にマフラー、マスクとメガネだけつけて家を出ると、ちょうど大家さんが隣家の玄関先で交渉中。「お疲れ様です」の眼差しを送って、車を移動させます。
とはいえ、用事も行くあてもなく、仕方がないので道の駅の広い駐車場で時間をつぶすことにしました。窓からはさんさんと陽が差し込み、ここのところの降雪が嘘のようです。少ない観光客の車が停まって、「わあ、すごいね」と積もり積もった雪に感嘆の声が聞こえます。わたしは、彼らから見えないように座席を倒して、じっと目をつむりました。
瞼の裏に太陽が透けてほの赤く、じんわりと頬や首の露出しているところを温めます。ぬくまった空気はやわらかいにおいがして、胸いっぱいに吸い込むと肺がゆっくり広がるようでした。最近、家にこもって延々と考え事をしていたので、良い機会に、目いっぱい日光を浴びてやろうと思いました。
10分、30分、1時間…気持ちいい、気持ちいいと思いながらシートに深く横たわっていたのだけれど、じわじわ、じわじわとこめかみに違和感。なんだか、頭痛のような吐き気のような、嫌な感覚。
どうやら、日光に当たりすぎるのもダメなようです。難儀な体だなあ。