ほとほとの煮物

お口にあうかどうか

死ななくてよかったね

お盆、家族でドライブしました。リゾート地となっているところから少し外れた田舎道、高い山をのぞむ橋べりに車を停めて休憩。川端の道を歩くうちに、母が、あっ、と高い声をあげました。

 

「サルナシだよ、とって」

 

母より頭一つぶん身長が高いわたしが背伸びをするけれど容易でなくて、跳びあがって手を振ります。枝ごとつかんで、鈴なりになる薄緑色の実を5こ、片手でもぎました。

 

「食べられるよ」

 

母は山育ち。幼い頃、男の子たちと山へ入って、ひとり蛇を捕まえて(男の子たちは逃げ出して)、祖母をえらく驚かせたといいます。

母がサルナシというその実は、細やかな産毛がはえて、手のひら転がせるほどの俵型。鼻を寄せても、香りはしませんでした。母が、歯をたてたのをみて、わたしもマネをしてサク。次の瞬間、戻らなくなるのではないかというほど、顔を歪ませました。激渋。隣で母も同じ顔。親子です。

 

「しっぶいじゃん!!!」

「しっぶいね!!!」

 

わあわあ言いながら、ぺぺぺと香味を逃がそうとするけれど、渋みとも酸味ともつかない不快感が舌に染みついて、あまつさえ喉の奥をクンクン刺激します。水で口内を洗って、母の甘いカフェオレを流し込むけれど、まだ何かつっかかっている気分。

 

「でも、ま、死ななくてよかったじゃん」

 

痛みにも似たはじめての刺激は、母の笑い声にまぎれて、なにがなにやら分からなくなりました。

 

オニグルミ。

その実の、本当の名前。仰々しい名の通り、クルミとして秋にはリスや人の口に入ることもあるけれど、夏にその機会はありません。せいぜい、川釣りの仕掛けとして、オニグルミをすりつぶしたものに他いろいろ調合して川の上流から流し、魚を浮かせたりするそうです。毒じゃん。

 

高くかたちの整った山、手をのばしても遠い青空、冷たい川の水、陽に透けて美しい木々、思い出しても舌の根がシクシクするオニグルミの実、それを口にいれて笑った、母の顔。

わたしのお盆の思い出です。