ほとほとの煮物

お口にあうかどうか

衝撃

その日は、なんだかダメでした。

理由はわからないけれど、何につけてもダメな日。朝きちんと起きられたのにお腹が空いていなかったり、それでも朝ごはんを食べようとしたその器をひっくりかえしたり、やっとの思いで出社したらデスクの上には覚えのない仕事が積まれていたり、出先で片足を水たまりにつっこんだり、何度咳払いをしてもたらたらと気の抜けた声しか出なかったり。なんだか「ダメ」の重なる1日でした。

青空だし、ネイルは塗り替えたばかりだし、新しい時計は腕できらきらして、ヒールがカツカツと小気味良いリズムを刻むのに、やっぱり「ダメ」なのです。

早く家に帰りたい。部屋に戻って好きな漫画をよんで、ベッドの上で両手両足をのばしたい。

そう思いながら帰社する車中、カーステレオをつけました。好きなバンドの新曲通知も、この気分を上げてはくれません。

響く一音目、呼吸、リズム、ボーカル、

衝撃。

 

音楽が好きです。

1日中、音楽を聞いています。幅広いジャンルを聞いて、特別好きなアーティストもいます。けれど、好きな曲、好きでない曲を言語化できません。

なぜかわからないけれど、好き。一音目から、ボーカルが発声に備えて呼吸をするその無声音から、リズムを紡いで1曲を成す、何度聞いても飽きずずっと大好きな曲があるのです。

生活リズムが崩れたり、仕事がうまくいかなかったり、追い打ちをかけるように嫌なことが続いたり、理由はわからないけれど何につけてもダメな日も、ちゃんと「1日」にしてくれる、そんな曲です。

 

そうした好きな曲を説明するただひとつの共通項目は、一音目の衝撃に依るのだと思います。出会った時に走るビビビという衝撃が、なんだかダメな1日をかえます。わたしはわたしの好きな曲に助けられながら、わたしの日々を刻むのです。

 

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  • ロック
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