ほとほとの煮物

お口にあうかどうか

夜道と缶ビール

「こんばんは」

お気に入りの焼き鳥屋へ。テーブル席はがらんとしていて、カウンターに3人だけ。わたしよりひとまわりくらい年上だろう男性、同じくひとまわり年上だろう女性とふたまわり年上くらいの男性のペア。マスターに、女性の隣を案内された20代半ばのわたしは、その日本当にダメでした。

以前から準備していた仕事がやっと終わって、でもなんだか不完全燃焼で、その理由を自分の内に探っていると別の仕事が立て込んできて、ミスをして、おまけに大きな問題発生。そのとき、涙腺は緩みきっていて、厳しい言葉をかけられても優しい言葉をかけられても、他人が語る夢の話ですら涙がこぼれました。

マスターに話を聞いてもらうつもりで焼き鳥屋を訪れたわたしは、カウンターで楽しくお酒を飲む彼らと並ぶことが申し訳なくて、用事を済ませにきただけという顔をして早々にお店を後にしました。

 

家で飲もう。冷蔵庫は、確かぱんぱん。お盆のときに実家からもらってきた食べ物やら、農家の友だちがくれた野菜やらが、料理の気力もないわたしの冷蔵庫で眠っていました。けれど、大切なお酒がありません。帰り道のコンビニで買おうか。でもコンビニビールは高いんだよな。もったいないな。カツカツカツカツ、夜道にわたしのヒールの音だけが響きます。ふと空を見上げると、月がぽっかり浮かんでいました。

そうだ、スーパーに行こう。

家路とは反対方向だけれど、歩けない距離ではありません。くるりと踵を返して、夏の終わり、夜のスーパーへ。入り口で、わたしと同じくらいの男女がきゃあきゃあ会話しています。車のまばらな駐車場を抜けて店内へ、ビールを2本だけ買って店を出ます。男女の隣を抜けながら、買ったばかりのビールのタブを引きました。

 

カツカツカツカツ

夏の終わり、ぽっかりまん丸のお月さまの下で、わたしの足音がひとつ。

心地よい風がふいて、ビールをぐびり。

今夜は、これが正解な気がします。