ほとほとの煮物

お口にあうかどうか

夏の名残の

「そんなつもりなかったのにお酒飲みはじめちゃいました」

スラスラと流れる文字列のなかから拾いあげられる文章。嬉しくて、またグラスを傾けます。

 

配信ライブは、ウイルス禍の音楽業界が見出した暁光といえるでしょう。遠方で活躍するバンドのライブに自宅から参加できて、しかも好きに飲み放題踊り放題。地方に暮らすわたしの音楽ライフを支えています。どうしても、生ライブが体感させる熱量とか、一体感とか、臨場感には敵わないけれど、贅沢は言えません。

 

ひさしぶりの配信ライブ。

自宅の広いところにパソコンをセッティングして、くるりと回って、両手をひらいて、なにもぶつからないことを確かめます。炭酸水を片手に時間を待ちます。

 

「どうも〜」

画面が切り替わって現れる彼ら。一音目が響いて、ボーカルが歌をのせて、画面はドラムの手元を追って。最高。

左右に揺れて、両手をふって、ふと、飲みかけのお酒の瓶が目に入りました。夏のあいだ、プランターで育てたミントと一緒に飲んだラム酒。冷凍庫には、レモンが冷凍してあります。気がついたら、お気に入りのグラスをとっていました。

 

そんなつもりなかったのにお酒飲みはじめちゃいました

「嬉しいね〜酒造会社のまわしものバンドやからね、美味しいお酒どんどん提供しますわ」

曲の合間のMC。コメント欄はつねにスラスラと流れていて、その波のなかから拾いあげられる文章。この双方向性は、生ライブのコール&レスポンスよりもっと個人的で、身近です。わたしの気持ちを乗せた文章を、大好きなバンドが「嬉しい」と言いながら読み上げてくれている。

 

きょう、お酒を飲むつもりなんてなかったのです。

でも、彼らの言葉に許されたような気持ちになって、2杯目を注ぎます。夏の名残のラム酒は、今夜、空っぽになりました。