ほとほとの煮物

お口にあうかどうか

駐車場人間観察

猫がいました。

日暮れ時、家に帰ると駐車場の隅に猫の姿。初めて見かける猫でした。

「おいで」

身を低くして声をかけてみるけれど、猫は、黄緑の目をまんまるにして睨むばかり。手を伸ばして、じり、と距離を縮めようものなら、たっ、と縮めた分プラス50センチくらいの距離に身を翻しました。

「そりゃそうか」

小さく口にして自室へあがりました。

 

わたしの部屋は、木造アパートの2階。窓からは駐車場が見えます。日中のこもりきった熱気を逃がそうと窓を開けると、駐車場に大きく横になる猫と目が合いました。

 

自室でソファに寝転んでいると、車のエンジン音。まだ陽がおちきるまえに帰宅した駐車場には、わたしの車と猫だけ。そこへ、住人が帰宅したのでした。

この春、階下に越してきたお兄さん。顔を合わせたことはないけれど、朝方、大きな咳払いをして出勤する音が聞こえていました。

「ちちち」

いつもどおり、頭から突っ込むように車を止めて大きな咳払いとともに部屋へ、と思いきや、そこへしゃがんで、猫に手を差し伸べます。舌を鳴らして気を引くけれど、猫は、じ、とお兄さんを見つめたまま起き上がる気配はありません。お兄さんは、小さな咳払いをしてアパートに入ってきました。

 

その後も、斜め下の部屋に住むおじさんが「おう、」と猫に声をかけて、下端に住むお姉さんが「おいで」と呼びかけ、隣のお兄さんが「ほら、」と手を差し伸べては、猫はじいと人間を睨み、距離を詰めようものなら、さあっと車の下に身を隠します。その姿に人間は、少し笑って、少し残念そうに、アパートの自室へ帰るのでした。

 

みんな猫が好きだなあ。

関係性の希薄なアパート生活、住人それぞれの人間性を垣間見て、少し、笑いました。

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