ほとほとの煮物

お口にあうかどうか

母言うことには

安物買いの銭失いはやめなさい。

良いものを、長くもちなさい。

母の言うことは、いつも正しい。

 

「毛抜き」は、いまや100円ショップからドラッグストアの美容コーナーまで、広く扱われるアイテムです。ピンと飛びだした目障りな毛を引き抜くのに便利。また、「毛を抜く」という行為は一種 快感に近いものがあって、対象を捕らえてプッツンと引き抜くその瞬間、得も言われぬ充足感が胸を満たします。そのため「毛抜き」は必要不可欠な仕事道具。わたしは、お母さんから譲り受けたものをずっと使っていたのだけれど、化粧道具箱のほかに洗面台にも置けば便利なのではと、SNSで話題の毛抜きを購入しました。880円プラス税。100円で用事は済みますが、大切な仕事道具。どれ、人気の品を試してみたい気持ちになりました。

 

母のものとは違う、優雅な曲線美。手持ち部分には擦り加工がしてあって、すう、と細くなった先は滑り止めでしょうか、色がかわっています。

いざ毛抜き。

人気の腕前とはいかに。

そして結局、いつもの毛抜きに持ち替えました。母から譲り受けた逸品です。

 

母は、日用品にこだわるタイプ。上等の白粉や櫛を使います。さまざまな色や形を安価で試したいわたしに、母は「安物買いの銭失い。良いものを長く使いなさい」と口を酸っぱくします。でも、安いもののなかにも良いものがあるのではないか、「当社比」ならぬ「母比」のそれらが本当に良いものなのか、わたしには少々疑問でした。

 

言わずもがな、母からもらったその毛抜きも、上等のものでした。使いやすく長持ちする毛抜き。疑いなく使い続けていた毛抜き。それが、どこの誰とも知らないSNSで評判のものを使って初めて、母の正しさに気づきました。やっぱり、母の言うものが一等つかいやすいのです。

 

安物買いの銭失いはやめなさい。

良いものを、長くもちなさい。

母の言うことは、いつも正しい。